BC州ビクトリア市のホームレス問題再再度

8月15日付けでトロントの若手物書きグループ「G8」に掲載した記事に加筆し下記に転載する。

 

テントシティ

 

 2015年春、ビクトリア市内にあるBC州裁判所裏の木々に囲まれた静かな公園は、定まった住居のないホームレスの人々のテントで埋め尽くされ、「テントシティ」と呼ばれようになった。(↓)

 

 

 出入りが激しく正確な数は把握できなかったようだが、最初はポツポツと数個のテントが散見されたものの、またたく間に80〜100人余りに占領されたのである。

 

 警察も足繁く見張りをしたものの、それ迄は静かな住宅街だった一角に出没した大勢のホームレスに、当然ながら周囲の住人たちからの苦情が絶えなかった。

 

 劣悪な環境のためネズミや害虫が発生し、まず衛生面から大問題になった。加えて昼夜を問わずの騒音、喧嘩、ボヤ騒ぎ、ドラッグの売買、はては売春までが横行。道を隔てたカトリック系の私立の幼稚園、小学校は一時休校し、一般市民の安全面から辺り一帯は極度の危険地域に陥った。

 

 最終的には連邦、州政府、地方治自体が協力して、多くの時間と資金を投入し低家賃で住める家を急きょ建設したり、使用されていない建物を改築したりなどして一応の解決を見た。

 

 二年後には、害虫の駆除やドラッグ等に使用された注射針を取り除くために、1m余りも土を掘り起こし新たな盛り土を持ち込んだり、また周辺の木々も切り倒すなどして子供の遊園地(↓)にと変身した。

 

Keiko2-遊園地に変身

 

 もちろんこの問題は、まず住居の確保が最重要なことは言をまたない。だがそれのみでは解決しない複雑な問題が相互に絡み合っている。

 

 彼らが野外で生活をするようになった理由を、市内に居る1500人ほどのホームレスの中から、900人程を対象にした最近の調査結果から見ると、劣悪な家庭環境の出身者、ドラッグの過剰使用者、西海岸方面に多いindigenous(原住民)や、LGTPQ(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Queer, Questioning)の人々であったり、また生まれながらにメンタルヘルスの問題を抱えていたりなど等。

 

 掘り下げれば下げる程に彼らが抱える問題の深さが露見されるのである。

 

市内の互助機関

 

 ホームレスはどの大都会にも存在する普遍的な問題で、ビクトリア市のみでないことは周知の通り。だが当市はカナダの中では一番気候が温暖なため、その数は確かではないものの、他州の町からの流入もあると聞く。


 ではBC裁判所裏のテントシティが無くなったことで、ホームレス問題が一掃したかと言えばそれは全く「否」である。氷山の一角の問題は一応鎮静したものの、その後も彼らの姿は町の随所で見られ、特別に驚くに値しないほどに日常の風景の中に溶け込んでいる。

 

 しかしだからと言って誰も手を差し伸べず手をこまねいているかと言えば、それもまた「否」である。

 

Keiko3-民間互助機関「Our Place」ops_building_crowd

 

民間互助機関「Our Place」

 

 市内には彼らをサポートする「Our Place」https://www.ourplacesociety.com/と呼ばれる民間の互助機関が存在し、日々の食事(約800人分)を提供し、必要な援助を惜しまない。

 

 加えて市内の幾つかの教会も、夜間にジムを開放し彼らが寝泊まりする場所を提供したりもしている。

 

 だがここに来てCOVID-19の蔓延のために、2mの間隔を置く「social distance」という規制が彼等にも適用されたため、夜間の宿泊場所にも収容人数の制限が出来てしまった。

 

 はみ出されたホームレスは、仕方なくOur Place前にある幅の広い歩道にテントを張り(↓)「テントシティ」の再来を招いたのである。

 

 

 

 その他にも幾つかの市民公園、市役所の裏庭などにも居場所を求めテントを設置し、日を追うごとに市の大問題へと発展していった。

 市民としては「またか!」と言う思いを禁じ得なかったが、数年前と同様に再度ビクトリア市が連邦や州政府の協力を得て、スポーツアリーナを一時的に開放したり、ほとんど使われていなかったモーテルや、空き部屋の多いシニアホーム(↓)を買い上げたり・・・などの処置を取っている。

 

Keiko5-買い上げられたシニア・ホーム

 

 当然ながら莫大な費用が掛かるため、憤懣やり方ない一部の市民が市長をやり玉に挙げてツイッターで攻撃したり、それは「そうした世論はフェアではない」とメジャーの新聞が擁護したり・・・。ここ何ヶ月は、HOMELESSの文字がメディアに登場しない日はないと言っても過言ではない。

 

イタリアの更生施設

 

 彼等に一番必要なのは、まず安定して住める場所を供給することであるが、それと同時に、将来社会に復帰できる生活や職業のスキルを身につけることも非常に重要なことは誰でもが理解するところである。

 

 その成功例として、イタリアのフローレンスにある1700人も収容できるSan Patrignano https://www.ourplacesociety.com/new-roads toと言う更生施設を手本にして、ビクトリアの郊外に1年ほど前に開設されたのがNew Roadと呼ばれる施設である。

 

 ホームレスになり、ドラッグなどの依存症に苦しみ、犯罪に手を染めて刑務所に送られた経験がある人々を対象にしている。彼らの80%は男性であることから、今この施設は男性専用で50人までが収容可能である。

 

 滞在期間は2年間でその間に日常生活の一般を習得し、学校や社会に復帰する準備を整えるのである。https://www.vicnews.com/news/an-inside-look-at-our-places-therapeutic-recovery-community/

規模は小さいながらこうした施設がオープンしたことは喜ばしいが、設立費用さえあれば女性用の更生施設もと関係者は切望している。

 

政府からの援助金(CERB)

 

 COVID-19の問題はホームレスの人々のみでなく、一般のカナダ人の多くも経済的な危機に立たされている。

 

 4月からはそれが理由で職を失った人々に、緊急対応給付金(Canada Emergency Response Benefit)の支払いが開始された。最初は週500ドルが合計24週間支給されることになったのだが、その後12月迄延長され給付される。

 

 手続きはいとも簡単で、5月11日付けの朝日新聞デジタルの記事によると、カナダにワーキングホリデーで一時滞在し飲食店でアルバイトをしていた女性が、支払いの対象になった喜びを投書していた。

 

 しかし必ずしもCOVID-19が原因ではなく、同時期に他の理由で失業した人も、オンラインで手続きして収入を得るなどシステムを悪用する輩も多く、税務署はそうした人々の摘発に今乗り出している。

 

 ある日筆者は、市内の一番大きな公園(Beacon Hill Park)のあちらこちらにテントを張っている60人程のホームレスの一人にインタビューを試みた。

 

Beacon Hill Parkのテントの群れ

 

 何の臆面もなくパーソナルな話をしてくれた40半ばと思われる男性は、言う所のホームレスではなく、2,3日公園に宿泊するキャンパーで本国には家族も家もあるとか。

 

 無作為にインタビューを試みたため、すぐに見分けが付かなかったのだが、そう言われてみれば、髪は短く刈り髭も剃り身だしなみは悪くない。

 

 たまたまスコットランドから1年ほど前にカナダに来てしばらくバンクーバーで自分のプロフェッションである建築関係の仕事をしていた時に、COVID-19が蔓延し働き口を締め出されたとのこと。

 

 どの程度の収入があったかは言及しなかったが、カナダ政府からの支給金で生活を維持しながら、気候の良い今の時期に自転車でバンクーバー島を北端まで旅行する計画を立てたと言う。

 

 「おやおや、コロナさまさまか・・・」と、筆者は何やら複雑な気持ちにさせられたことは言うまでもない。

 

追記(9月2日)

 

 8月末頃からBC州もそろそろ学校が再開した。カナダの教育省は日本のように全国統一ではなく、それぞれの州が独自の運営をしている。

 

 コロナの問題をどの様に扱うかは各学校によって異なり、また公立、私立によってもそれぞれの方針があるため統一されていない。マスクを着用するようにとの指示はあるものの、学校に居る間中それが守れるか、特に低学年の場合は難しく大きな問題になっている。

 

 それを心配する親の中には「ホームスクール」を開始して、親が教育省のカリキュラムに沿って子供を自宅で勉強させることを始めた人も多いようだ。これはコロナ以前からあるシステムで北米では珍しい事ではないのだが、今は自分の子供だけでなく仲良しの子供を何人か集めて少人数でやっているとか。

 

 しかしこの場合、親の誰かが家を開放して子供たちの面倒を見なければならない。となれば、自宅でテレワークで仕事をしている家庭では無理な話である。

 

 授業の再開と共に、ホームレスがテントを張っている公園などの近くにある学校では、彼等を移動させるように市に要求している。だが当地の公園に多いGerry Oaksは非常に傷つきやすい樹木のため、それが植わっている地域は避けるようにとのお触れも出ているため、彼等はテントも持ってあちらこちらに移動することを余儀なくされている。

 

 また当市は、ホームレスに手厚い保護をしているとの情報が彼らの間で流布されているとか。言われて久しいのだが、遠くはオンタリオ州のトロント市などからも、はるばるやって来て居座るケースもあるとのこと。

 

日に二回食料を積んだ車が、ホームレスの多い場所に来てハンバーガー、チップス、クッキー、果物、飲み物などをフリーで配る。

 

 まことに終焉を見ない大問題であることは、まるでCOVID-19と同様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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