女優・小説家 岸惠子インタビュー 2014年 bits(Toronto)新年号

keiko kishi


インタビュー記事の載ったbitsマガジン(トロントの日系誌)

浮き沈みの激しい芸能界にあって、60余年もの間輝き続ける女優・岸惠子。戦後間もない1951年に18歳で映画デビューしたと聞けば、今の若者には気が遠くなるほど昔と思われるかもしれない。

だが他に娯楽の少ない映画全盛の時代に次々と話題作に出演し、平成の今でも美女ランキングの上位を占める女優と聞けば、どこかでその年齢を超越した美しい姿を目にした人も多いだろう。


20代半ばでフランスから来日した医師であり映画監督だったイヴ・シャンピ氏に出会い、彼の作品に出演したことから結婚。愛が国境を越えたことで、人気絶頂だった日本での地位を捨て1957年に渡仏した。

一般の日本人には外国旅行などまだ夢の夢、パリまで飛行機を乗り継ぎ50時間も掛かった時代である。

その後の人生は、持ち前の負けん気と一途な頑張り精神で仏語をものにし一児ももうけたが、紆余曲折ののち離婚と言う苦渋の選択を余儀なくされた。

だがその体験をテコに、映画女優、舞台俳優、ジャーナリスト、更には作家としても次々と才を発揮し今なお各方面で活躍し続けている。

また2013年3月には、70歳になんなんとする女性が、世界を縦横無尽に飛び回る敏腕ビジネスマンとの偶然な出会いから恋に落ちる物語『わりなき恋』(幻冬舎)を上梓した。

12歳年下の妻子ある男性との恋は、ただ甘いだけでなく、濃密な関係になるほどに味わう女の哀婉、慟哭、苦悩を深く掘り下げ、また成熟した男女の性愛をも描き切り話題になった。

物語はフィクションながら、華のある人生を真摯に生き抜こうとする作者自身の片鱗が投影されているのは隠しようがない。

だがそれは、永きにわたる人生で、特に近過去40年ほどの間、世界の動きにしっかりと目を据え、そのうねりを敏感に感じ取る身の施し方を自らに課した作者だからこそ書けた小説と言える。

近年は活動のベースを日本に移し変わらずにフランスと日本を往復している。


インタビュー

小説『わりなき恋』が大変な評判ですね。


−嬉しいことに9刷19万部も出ており、中には7回も読んだという人もいるほどです。草稿中は夜中に目が覚めメモを取ることが何度もあるほど文章を推敲しました。

分別ある大人の2人がお互いに惹かれたらどうなるか。恋する者のはかない感情の動きを描く一方、成熟した男女の関係を、19世紀の画家クリムトの官能的な画のように私流の日本語で書きたかったのです。

でも人生経験の少ない若者や週刊誌などは、不倫小説としてそこだけを切り取って紹介してましたが、私はそんなちっぽけな枠のチマチマしたことを書いたわけではありません。

第一恋とは非常にもろいもので、倫も不倫もないと思っています。器物損壊罪があるなら、あれは立派な作品損壊罪ですね(笑)


小説は、1968年の「プラハの春」から2011年の「アラブの春」「東日本大震災」までの世界の動きを絡ませ、読む側には幅広い知識が要求されます。また外国生活を体験した者でないと分からない思考回路も見えました。

−日本人はとても優しいので日本だけに住んでいると外からの刺激が少なく、いわゆる「試される」というような体験をせずノホホンと生活しがちです。

私は日本人で外国住まいの方を沢山知っているのですが、皆さんその点を指摘され、将来この本を仏・英語に訳して外国にも紹介して欲しいと言われます。


今の日本は若者文化が全盛で、成熟した大人の物語が少ないように思います。

−テレビや映画の中の若い人たちはお洒落でスタイルもよく素敵なのですが、みな同じに見えてしまいます。作品でいいものもありますが私には物足りない。反面話題が高齢者になると、一気に孤独死など人間の残骸かと思うような映像ばかりです。

もちろんそうした現実はあるにしてもそれでは余りにも暗すぎます。人生の終盤に虹が立つような華やぎがあってもいいのではと想いこの小説を書いたのです。

映画化は?

−希望は持っています。自分で演出したいですが、残念ながら今スターと呼ばれる日本の女優の中に、言葉を介 し国際感覚を持ち、外国の土壌を物怖じせずにさっと歩ける人はいません。

長い間パリをベースにした後日本に戻られました。2つの異なった世界での体験は岸さんの中でどのように共存しているのですか

−24歳で結婚のためにパリに行きずっと拠点にしていましたが、母が亡くなってから66歳で日本に戻りました。私の中では魂は日本、エスプリはパリ的ではないかと思っています。

日本での生活では仏語を使うことが少ないですね。どのようにキープしているのですか。

−とても難しいです。結婚で渡仏した後、とにかく懸命に綿密に仏語を勉強しました。でもどんなにやってもそ こで生まれ育った人にはかないません。

深い思いの伝達には歯がゆさを味わいます。その分日本語に対する思いは日本で暮らす日本人より深く募っていったし、言葉というものにとても敏感です。

日本語にそんな思いがあるのですね。今後のご活躍をお祈りします

(インタビューは、2013年8月に朗読劇『蝉しぐれ』(藤沢周平作)の舞台稽古進行中の横浜・関内ホールにて行われた。日本各所での2ヶ月余りの上演は大喝采で迎えられ、10月半ばに大成功のうちに幕を閉じた)


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横浜・関内ホールでの朗読劇の案内

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